クルマ選びを行なっているあなた。
気に入ったクルマのカタログやメーカーのサイトを見ていて、駆動方式の部分に書かれた文字の意味をご存知ですか?
クルマにはエンジン位置と駆動輪(回転して路面を蹴るタイヤ)の違いで「FF、FR、MR、RR、4WD」の5つの方式があるのですが、実際にクルマの購入を考えている人の大半は、駆動輪のことなんて気にしていなかったり、なんとなく「4WDの方が高価だし、滑りにくいから4WDの方が良いんでしょ?」くらいに考えている方が多いのが実情です。
駆動方式の特徴を知らなくても運転することはできますが、知っていればスタック(泥濘や雪でスリップして動けない状態)してしまった場合などでも、スムーズに脱出することができたり、何かと役に立ちます。
また、趣味としてクルマを楽しむのであれば、それぞれの駆動方式の特性を理解することで、より運転を楽しむことができます。
今回は悪路に強い「4WD」や高級セダンやスポーツカーに採用される「FR」など、クルマの駆動方式の違いについて書いてみようと思います。
クルマの駆動方式とは
駆動方式とはエンジン位置と駆動輪の違いで「FF、FR、MR、RR、4WD(AWD)」の5種類の駆動方式があります。
駆動方式は4WDを除いて、基本的にアルファベットの2文字で記載されます。
まず、前の文字がエンジンの位置を表し、後ろの文字が動力が伝わり地面を蹴る駆動輪を表す略語となっています。
たとえばクルマのボンネット(前)にエンジンがついていて、前輪で車体を引っ張って走る駆動方式を「FF(Front-engine Front-drive)と呼ぶような感じです。
ただし、EV(電気自動車)に関してはエンジンを持たず、重量物がバッテリーとモーター、インバーターになるため、単純に「前輪駆動」などと表記されたり、ガソリンエンジンなどと同じで「FF」と表記されたりで、表記が統一されていないことがあります。
FF方式とは
FFとはボディの前部分つまりボンネット内にエンジンが搭載されており、前輪のタイヤが回転することで車体を動かす方式です。
Front-engine Front-driveの略でFFと表記されます。
現在、新車で販売されている車の駆動方式としては最も多い形式です。
トヨタVOXY ハイブリッドシステム 画像出典:http://toyota.jp/voxy/
FF車のメリット
FFのクルマは、エンジンから後輪に駆動力を伝えるために必要なプロペラシャフトが不要になるため、室内が広く作れることが特徴です。
パーツ数を削減できるところから、車体の生産コストの削減や軽量化にも有効です。
また、駆動輪の上にエンジンがあることから、発進時に車輪を路面に押さえつける力が強くなっています。
そのため、4WDほどではありませんが、雪道や泥濘などで発進する際、車輪が空転して動けなくなってしまうことが少なくなります。
FF車のデメリット
クルマは加速時に重心が後輪方向に傾くため、高出力なエンジンを搭載しているクルマの場合、駆動輪が空転して駆動力をロスしてしまうことがあります。
その為、大排気量&高出力のエンジンをもつ車種にはあまり採用されていません。
また、駆動輪と操舵輪(ハンドルを切って曲がる車輪)が同じになっているため、最小回転半径が大きくなりがちで、アンダーステア(※)の傾向が強くなる特性があります。
通常走行時に気になるようなレベルではありませんが、スピードが出た状態でコーナーリング中に加速しようとアクセルを踏むと、前輪から荷重が抜けてしまうことで、アンダーステアが強くなる傾向があります。
それをコントロールする運転技術はあるものの、サーキットなどでスポーツ走行を楽しむ方にはコーナー進入後も、アクセルでクルマの挙動をコントロールしやすいFRが人気です。
(※)一定のハンドル角で旋回しているとき、速度が上がるにしたがってクルマの向きが外側に膨らんでいく現象です。アンダーステアはアクセルオフで打ち消すことができますが、限界に近い速度でのアンダーステアの場合、アクセルオフで重心が移動した際に内側に切れ込みスピンすることもあるので、安全運転を心がけましょう。
ちなみにこれをコントロールするのがタックインというスポーツ走行技術です。
FF車がオススメなユーザー
各メーカーの軽自動車から中型車までの多くの車種はFF方式を採用しています。
このことから、豪雪地帯や未舗装路などを走る機会が少ないユーザーであれば、万人にオススメできる駆動方式と言えます。
特性上はスポーツ走行が苦手な形式ではあるのですが、各メーカーも工夫していて、意外なほどに高いコーナーリング性能を持ったFF車も存在します。
代表的なFF車
ヴィッツ(トヨタ)、カローラ(トヨタ)、ブルーバード(日産)、シビック(ホンダ)、アクセラ(マツダ)、スイフト(スズキ)など
FRとは
FRとはボディの前部分にエンジンが搭載されており、後輪のタイヤが回転することで車体を動かす方式です。
Front-engine Rear-driveの略でFRと表記されます。
昔は主流の駆動方式でしたが、現在では高級車や一部のスポーツカーに使われることが多い駆動方式になっています。
FR車 日産フェアレディZ 画像出典:http://www2.nissan.co.jp/Z/
FR車のメリット
車が加速する際、荷重は後方に移動します。
FR車は後輪が駆動する為、高出力のエンジンで一気に加速を行なった場合にも、その荷重移動がタイヤを路面に押さえつける力として働き、しっかりとエンジンからの力を路面に伝えることが出来るようになっています。
また、FR車は駆動力は後輪に、ステアリングは前輪と役割がしっかりと分かれていることで、前輪に無駄な力が加わらないため素直な操作感覚が期待できます。
重量の配分はエンジンのある前方に寄っているものの、加速時にはニュートラルで理想的な50:50に近づくように設計されているモデルも多く、スポーツ走行を楽しむ際にも素直なステアリングフィーリングと加速が楽しめます。
FR車のデメリット
エンジンが前方にあり停車している時には後輪に荷重が少ないため、雪道や泥濘などで発進する際に車輪が空転して動けなくなってしまうことがあります。
FRが雪道に弱いと言われるのはこのためです。どうしても脱出できないときにはトランクに荷物(重り)を積んだりすることで対策できることもありますので、頭の隅に覚えておくと良いでしょう。
雪道や雨天などのコーナーリングで急なアクセル操作を行うと、後輪がグリップを失いスピンによる事故を招くこともありますので、ドライバーには若干の自制心が求められます。
エンジンの力を後輪に伝えるため、プロペラシャフト、ディファレンシャルギアなどが必要で、4WD以外のその他の方式に比べて車重が増加します。
また、プロペラシャフトを通すスペースを車体中央に設けることで、センタートンネルが大きくなり、室内空間が狭くなりやすい傾向があります。
FR車がオススメなユーザー
素直なステアリングフィールや加速性能などから、運転することが好きな方やスポーツ走行を楽しみたい方にオススメです。
特にクローズドコースで行われる「ドリフト」と呼ばれる後輪の滑りをコントロールした走りなどは、FR車の特権とも言えるでしょう。
代表的なFF車
86(トヨタ)、クラウン アスリート(トヨタ)、フェアレディZ(日産)、ロードスター(マツダ)、BR-Z(スバル)など
4WDとは
4WDまたはAWDを表記されることもあり、それぞれ4(four) Wheel DriveまたはAll Wheel Driveの略となっています。
他の方式と違ってエンジンの位置については表記はありません。
多くの車種ではFFやFRと同様にボディの前にエンジンが搭載されていますが、ポルシェのように後方にエンジンを載せているモデルもあります。
プロペラシャフトとディファレンシャルギア、モーターなどの電子システムなど車種によって各駆動力を制御システムは多彩で、一言でまとめることができませんが、動力を前後に配分し、全ての車輪を回転させて走行することは共通しています。
駆動輪の使いかたによって大きく分けて3つの種類があり、車種によってその種類が異なるため、購入の際には若干注意が必要です。
「パートタイム4WD」
通常時は2WDで走行しますが、状況に応じて2WDと4WDを切り替えて使用することができます。
悪路の走行を前提としたSUVなどに多い方式です。
「フルタイム4WD」
常に4WDで走行するタイプの駆動方式です。
「リアルタイム4WD」
走行の状態を車両が感知しながら、自動的に2WDと4WDを切り替えてくれる方式です。
雪道の走行などに強いバンタイプ、スポーツカーなどカテゴリーによって、機械式やコンピューター制御など多くのシステムが存在します。
シンメトリカルAWD 画像出典:https://www.subaru.jp/
4WD車のメリット
4WDは4輪全てに駆動力を伝えるので、滑りやすい路面などに強いのが特徴です。
電子制御などで、4輪全てに適切な駆動力を伝えるシステムなどが採用されている車種であれば、泥濘や深雪での発進限界もさることながら、雪道や圧雪路面での走行安定性は他の駆動形式の追随を許しません。
アクセルを踏み4輪が駆動力を路面に伝えている状態では、高速走行時の直進安定性や操縦安定性ともに非常に優れるシステムといえます。
しかし、システムをオフにしたり、電子制御システムのない車両で、ブレーキを踏んでタイヤをロックさせた場合、他の駆動形式同様にスピンしますので、4WDだからという過信は禁物です。
4WD車のデメリット
4輪全てが駆動するとく特製から、5つの駆動方式の中で最も部品点数が多く車重が増加しており、各メカニズムを駆動させる際に消費されるエネルギーも多いため、燃費も悪化する傾向があります。
また、開発やメンテナンスも同サイズの2輪駆動車に比べて多くのコストが必要です。
FR同様、駆動輪をつなぐプロペラシャフトのほか、個々の車輪の駆動力を調整するためにセンターデフという差動装置を持つものあり、室内空間が犠牲にされることがあります。
4WD車がオススメなユーザー
悪路に強い特性があることから、豪雪地での生活の足には必須とも言われる駆動方式です。
首都圏などの雪の少ない地域にお住いの方でも、スキーやスノーボードなどのウインタースポーツ。登山などのアウトドアスポーツを楽しむ方にもオススメできます。
代表的な4WD車
ランドクルーザー プラド(トヨタ)、GT-R(日産)、CX-5(マツダ)、WRX STI(スバル)エスクード(スズキ)、パジェロ(三菱)など
MR・RRとは
MRとはmidship-engine Rear-driveの略で、前後の車軸の間にエンジンが搭載されています。
基本的に2人乗りの車で採用され、後部座席のある位置にエンジンが載っており、後輪のタイヤが回転することで車体を動かす方式です。
また、RRはRear-engine Rear-driveの略で、MRよりさらに後方。
通常トランクの位置にエンジンがある方式です。
採用している車種は非常に少なく、荷台の下などにエンジンを搭載するバンやトラックを除けば、一部のスポーツカーやスーパーカーのみに採用される方式です。
ちなみにフロント部分にエンジンが搭載されていないので、その空間部分にはスペアタイアの収納や小型のトランクスペースになっています。
ホンダ S660 画像出典:http://www.honda.co.jp/S660/
MR・RR車のメリット
FRと同様に後輪駆動ですので、加速時の重心移動を駆動輪を路面に押さえつける力として使用することができます。
なお、MRやRR車は後ろにエンジンがあるため、重心移動分+エンジンの重量でトラクションアップが図れることから、FR以上に高出力なエンジンにも対応できます。
車体の中央寄りに重量物であるエンジンを配置することで、スポーツカーとして理想的な重量配分に設計することができることが1番のメリット言えます。
エンジンや変速機などの重量物が後方、フロント部分にはステアリング機構と冷却装置のみという構成のため、構造的にシンプルで軽量化にも貢献します。
また、前方にエンジンが搭載されていないので、非常にステアリングが軽く、ドライバーのやや後方を中心に旋回していく独特なフィーリングを味わうことができます。
MR・RR車のデメリット
エンジンが運転席のすぐ後ろにあるため、エンジン音が室内に響く車種が多いです。基本的にスポーツカーが好きな人であれば、エンジン音も楽しめると思いますが、同乗者など興味のない方はうるさいと感じることがあるようです。
エンジンを後方に搭載することや、走行性能を中心に考えたレイアウトになっていることから、室内空間が狭く2名乗車のモデルが基本です。
空気抵抗を減らすためにボンネットを低く設計している車が多く、トランクルームが狭いことが多いのは日常使いでは大きなデメリットです。
また、上り坂などで前輪の荷重が抜けてしまうとアンダーステア傾向になり、逆に荷重が乗るとオーバーステアになるなど、ステアリング特性に癖があり、FRやFFに比べ限界を超えた時の挙動が急なため、スポーツ走行では上級者向けのレイアウトといえます。
MR・RR車がオススメなユーザー
現在は新車で購入できるMRやRRの駆動方式を採用した国産乗用車は少数です。
トラックやバンを除けば、スポーツカーということになりますので、独身の方やセカンドカーとして、趣味で車を楽しみたい方にお勧めします。
狭い車内に乗り込んだ時のコクピット感。キレのあるステアリングフィール。後方から盛り上がるエンジン音など、車を走らせることを楽しむのであれば、最高の相棒になってくれることでしょう。
S660(ホンダ)、NSX(ホンダ)、911カレラGTS(ポルシェ)、ビートル(フォルクスワーゲン)など
まとめ
いかがでしたか?
私もRR以外は全ての駆動形式に乗ったことがありますが、それぞれの駆動方式によってメリットやデメリットがあり、それを参考に選ぶ楽しさもあります。
「日常の使用には便利なFF」、「日常生活だけでなくスポーツ走行を楽しむならFR」、「何より運転そのものが楽しいのはMR・RR」、「雪国で暮らしたり、週末に登山やゲレンデに通うのであれば4WD」といった感じで使い分けられたら最高ですが、やはりユーザーのライフスタイルにあった車種・駆動形式を選ぶことで、行動の幅はグンと広がり、カーライフの充実感も増していきます。
それでは、あなたが最高の愛車と出会えることを願っています。